2006年10月04日

マサルと僕らとサボテンタコス

高校生活最後の秋、僕らは勉強もせず駅前の小さな喫茶店で放課後を過ごした。
 店の名前は『サボテンタコス』。 野郎ばかりいつものメンバーが5、6人。 100円のタコチップとコーヒーを一杯だけ注文して、 「シンディー・ローパーは"TIME AFTER TIME"以上の曲はもう作れないよなぁ~。」なんて、たわいもない話題でだらだらと時間を過ごしていた。



 そんなある日、僕らのテンションを一気にヒートアップさせる出来事が起こった。 親友のマサルが合唱部の女の子をデートに誘ったのだ。

 紺のブレザーとチェックのスカートが似合う、小柄でおとなしそうな美少女だ。

 早速、僕らはハートを射止めるための作戦を考え始めた。

”POPEYE”や”ホットドックプレス”を熟読して知識だけはタップリ入っている。 マサルも僕も他の仲間もみんな浮かれて、自分がデートをするかのように意見を出し合った。マサルは大学ノートまで用意し仲間の意見を箇条書きにした。

 

 やがて周到なシミュレーションもこなし後はデートを待つばかり。

もちろん、北方兼三の『試みの地平線』で勇気も注入済みだ。
  デートを翌日に控えマサルは万全を期す為、財布とハンカチを購入し帰宅した。

 「これで完璧。」



 帰宅後、マサルは赤いタートルセーターとワンウォッシュのリーバイスを用意した。長身でスリム、“(清水宏次朗 +阿部寛)÷2顔“のマサルに良く似合う格好だ。そして、デートに履いて行く予定のプレーントゥーを丁寧に磨き始めた



 高まる緊張、膨らむ期待。 自然と靴を磨く手にも力が入る。

と、その時、マサルの家の電話が鳴り響いた。

「チリリ〜ン」

合唱部の美少女からだ !



「明日は友達として行くんだよね」

 ”と・も・だ・ち…”



 突然そう念を押されたマサル…

 混乱するマサル…

 必死に取り繕うマサル…

 一気にテンションが下がるマサル…



 彼はもう靴を磨くのを止めていた。



 次の日の放課後、マサルは、片方だけピッカピッカのプレーントゥーを履いてデート場所へ向かった。

 場所は『サボテンタコス』

 乾いた感情と僅かな期待の入り混じった複雑な気持ちのまま、彼は彼女と話し続けた。

 デート中残された僕らは彼女に見つからないように、店の入り口や窓から何回も何回も覗き見を繰り返した。引きつった笑顔と、いつもより少し背筋を伸ばしたマサルが彼女と向かい合って座っていた。マサルとは何度か目が合いその度に迷惑そうな視線を投げかけてきたがそんなことお構いなしだ。

 店内では楽しそうに話してる様子だったが、その後、ふたりが付き合ったと言う話はなかった。

マサルのチャレンジは失敗に終わった。 僕らのお祭りも終わった。

 僕は家に帰り、ぼんやりとTVを眺めていた。 松本のケーブルテレビから”ナチュラル”というアマチュアバンドの心地よいメロディーが流れていた。




masaru.jpgマサル36歳!





posted by ケイジ at 15:08| Comment(4) | TrackBack(0) | 昔の話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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